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「早く! この腕を掴むんだ!」
壁の穴からは彼女の顔が見えない。
それでも、地面を這いずっている、ズルズルという音だけは確認出来る。
そして伸ばされた指先に、彼女の細い指先だけが触れるんだ。
「しっかり握れ! いま引っ張り出してやるからな!」
手と手がしっかりと握り合わされた事を確認してから、僕はおもいきり引っ張った。
「何してんの?」
彼女の声は意外にも落ち着いていた。
逆に、何故それほど冷静でいられるのかが分からない。
でも、その声のする方向が僕の真後ろだと知り、掌の中にある、この感触が急に恐ろしくなった。
その感触は未だにあったが、手を放そうとした瞬間、手に掛かっていた荷重は失われ、ズルズルという音だけが後退を始めるんだ。
僕の後ろに立っている彼女は、可笑しな行動をするものだと、こう話し掛けてくる。
「私達の他に、誰か先客でも居たの?」
「いつ、外に……?」
「何言ってんのよ。怖くて穴には入れなかったから、車の中でずっと待ってたんだからね。直ぐ戻るとか言って、もうあれから一時間以上経ってるんだから」
「――そう、なん、だ」
「それでそれで、幽霊はホントに居たの? 写真には撮れたの?」
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