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「ではっ!」と司会進行役の人が言ったとたん、マイクから耳障りなキーンという音が響き渡り、その音で私は幼い頃の記憶から現実に引き戻された。
今、私は大好きな姉の立花百合と幼なじみであり私の愛する人、大沢圭の披露宴会場の家族席に居る。
普段はめったに着ることない着物に腕を通し、緊張や息苦しさを感じながら座っている。
この着物は私の成人式の為にお姉ちゃんと圭くんと二人で選んでくれた振袖。
綺麗な赤色に白、黒の配色。蝶とお花の絵が挿された私の大好きな振袖。
大好きな人が選んでくれたもの。
何かの戒めかのようにソレに身を包んでいる。
何で赤なの?とお姉ちゃんに聞くと色は圭くんが決めたらしい。
理由は「実羽は色白だから赤が映える」だって。
それを聞いた時、心が弾けるように嬉しかった事を覚えている。
あぁ、圭くんが私だけの事を考えて選んでくれたんだ!
その時の事を思い出すと涙が出てきそうになった。
涙を出さないために、俯いていた顔を上げた。
調度、マイクの調整をしていた司会者が「では、改めまして!新郎新婦をお迎えします!」
それを合図に姉の好きな曲が流れ始め、照明を落とした会場に純白のウエディングドレスを着たお姉ちゃんと白い細身のタキシード姿の圭くんが現れ、ライトを浴びながら壇上にゆっくりと歩いて行く。
そんな二人を祝福する人たちの声や盛大な拍手が会場中に鳴り響いた。
ゆっくりゆっくりと進む二人を私は何も考えず、ただジーっと見つめていた。
壇上に上がり終えた二人は、来て下さった皆さんを見て深く頭をさげた。
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