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「やけにしおらしいじゃねぇか」
揶揄するように返した男に、だって、と少女は言い淀んだようである。ややもすれば泣き出しそうなほどに、その声は弱々しかった。
『だって……おとーさんとおかーさん、どこにもいないし』
「まあな、いねぇだろうな」
『ここ、どこかわからないし』
「山ン中だ」
『おうち、帰り方わかんないし』
「まあ、迷子だな」
『……っく、……ふえ……う』
しゃくりあげるような声が聞こえ、男はガリガリと頭をかきむしった。少女はすでにこの世の存在ではないのだから、家へ帰るよりもいくべき場所があるのである。しかし、男には少女の今の状況では、それができないこともわかっていた。
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