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「家帰るつってもな……」
男は言いかけてため息をついた。先ほどからため息しかついていない気がする。それもまあ、仕方ない。仕方ないと、男は自分に言い聞かせた。
「そんだけちいせぇおまえが、親の後に死んでるとも思えねぇしな。わかってるか? 親より先に死ぬなんざ……今の状況、とんでもねぇ親不孝だぞ?」
『う……おとーさん……おかぁさぁん……!』
聞いているのかいないのか、少女は本格的に泣き出してしまった。
しかたねぇ、と男はぼやいて、ガリガリと頭をかきむしった。それからため息混じりに口を開く。
「あーあーもう、わぁったよ。送ってやる。送ってやるから」
『ホント!?』
突然華やいだ声を上げる少女に、男は憮然とした。なんだこいつ。ぜんぜん元気じゃねぇか。
思いながらも、男は言葉を継ぐ。元々彼は「そういう」職業の男だ。つまりは、「死者を故郷へ送り届ける」ための。
「だが、条件がある」
『なに……?』
警戒するような声色で、少女は問い返してきた。そんな少女に、男は初めてにっと笑う。懐から札を取り出し、ひらひらと振りながら答えた。
「家まで、自分の足で立って歩きな?」
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