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「よし、休憩終わり。そろそろ行くぞ」
男はゆらりと立ち上がると、足元に置いていた麻の鞄を肩に掛けて歩き出す。大股で歩く男に追いつこうと小走りになる少女は、なんとか空いた男の右手を捕まえようと必死で手を伸ばした。
が、届かない。
「……ほれ」
それに気づいた男は、歩調を緩め、手を少女に向かって差し出した。少女は恥ずかしかったのか、眉をしかめ、ぷい、とそっぽを向く。長く黒い髪と黄色の札がふわりと揺れた。
「……ったく、面倒くせェ」
男はぼそりと毒づくなり、少女の手を強引に引いて歩きだした。小さな歩幅の少女に合わせ、さらに足取りが緩やかになる。その腕を見上げ、少女は男を見上げた。
「おら。よそ見してっと転ぶぞ」
その視線がいたたまれなかったのか、少女からあえて視線をそらし、男はぶっきらぼうにそう告げる。大きな石をよけさせるため、緩やかに手を引いて自分の方に引き寄せてから、男は少女を見下ろし、面倒臭そうに左肩の鞄を掛け直した。
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