第一章

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 まあ、とにかく、誰かにサービスエリアか料金所まで乗せてもらおうと、トラックを降りて歩き出したら、この大雨さ。  そのうち誰かが車を止めて乗せてくれるだろう……そのうち、そのうちって、歩いているうちに、雨には濡れるし、トラックまで戻ろうにも遠くまで来過ぎてしまってね。ホント、困っていたんだよ。  夜中に親子がずぶ濡れで歩いていたから、一瞬、幽霊かと思ったって?  そうだろうね。  普通、人はこんな夜中に高速道路を歩いてないだろうしね。  真っ暗だし、雨だしね。オレ達が歩いていても、なかなか兄さん以外の他の車には気付いてもらえなかったよ。  シートが濡れるのに、乗せてもらってすみません。  あら、こいつは寝ちまったようだ。車に乗れたから安心したんだろうなあ。結構長い間、歩いていたし、疲れちまったんだろう。  兄さんは、家に帰る途中かい? スーツを着ているし、これから遊びに行くようには見えないね。  ……えっ? 接待の帰り?  あら、飲酒運転かい?  もう酔いは醒めているから、大丈夫だって?  乗せてもらってこんなこと言うのもなんだけど、酒は気をつけた方がいいよ。  身を滅ぼすからねえ。  会社の接待で、得意先の社長を大津まで送って行ったって? じゃあ、今から京都に帰るのかい? 京都じゃなくて大阪? 滋賀と大阪をこんな夜中に往復かい? それは大変だねえ。  ……トラックの仕事は長いのかって?  そうだねえ……。考えてみたら長いこと、この仕事をやってるねえ。
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