第一章

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 オレはガキの頃から車が好きで、高校を出てすぐに宅配便の会社に就職したんだ。未経験からこの仕事を始めたんだけどさ、最初は二トントラックを運転していたんだ。  荷物を運ぶのは好きなんだけどね、宅配会社のトラックっていうのは、運転距離がチョコチョコっと短いだろう。ちょっと走ったら車を止めて荷物を届けて、またチョコっと走ったら車を止めてっていうのが、どうしても好きになれなくてね。その会社は三年くらいで辞めて、それからはずっと大型トラック一筋だよ。  夜中の高速道路を走るのが、たまらなく好きなんだ。道を照らすヘッドライトの光を見るのが好きなんだ。  ああ、この仕事をやっててよかったって思うよ。  真っ黒の道路に、黄色いヘッドライトの光が差し込んでさ、闇の中を一人で突き進んでいくような、そんな感じがすごく好きなんだ。  そりゃ、仕事はきついよ。荷物の重さなんて宅配便と比べものにならないくらい重いしね。ただ、体は鍛えられるよ。胸の厚さだって、兄さんの二倍くらいはあるんじゃないかな。  きついけど、長距離運転が好きだからねえ。好きな仕事して、金もらって、それでオレは満足なんだよ。  運転中は一人だろう? 誰にも何にも言われることもない。  トラックの運転席は、オレだけの世界なんだよ。  どうしたんだい? 兄さん、大きなため息ついて。  何か嫌なことでもあったのかい?  何でもないって?  ふ~ん。なんでもないようには見えないけどね。まあ、いろいろとあるよな。  いろいろと、なんやかんや、起きる時があるよなあ。  でも、それは一つ一つ、きちんと整理して、片付けていかないと大変なことになるって思わないかい? ちょっとしたことでも、それを放っておいたら、ちょっとしたことが積み重なって、まるで自分一人では運びきれない大荷物になって、ずっしり両肩にのしかかってくるんだ。
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