第一章

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まあ、逃げたらダメだってことだね。  オレの年?  三十三さ。  へええ、兄さんも同じ年なの? 兄さんは、オレより若く見えるね。  まあ、おれはガテン系だしね。年より老けて見えるのかもよ。  兄さん、眠気覚ましなら、兄さんの話をオレが聞くよ。オレの話ばっかり聞いてちゃ、兄さん、眠くなるだろう?  ……えっ、話すことなんて何もない?  どうして?   家族もいないし、仕事だけの毎日だって? ふ~ん。仕事の話でもいいよ。オレ達、兄さんの車に乗せてもらってるんだし、オレばっか、話してたらなんだか悪い気がするよ。  ……人の話を聞くことには慣れている?  会社では、上司と部下の話を聞き、さっきまでは得意先の社長の話を聞いていた? じゃあ、一日中、誰かの話を聞いているのかい? 兄さんの話を聞く人はいないのかい? よかったらオレが話を聞くよ。後部座席からだけどさ。  ……。   兄さんが黙り込んだら、オレが眠くなっちまうよ。兄さんに乗せてもらっているのに、オレが寝てしまったら、それは失礼だよな。  ……えっ? どうしてトラック運転手が、夜中に子供と一緒にいるのかって? 子供は何歳なのかって?  子連れのトラック運転手っていうのは、結構いるもんなんだぜ。  初めて聞いたって?  そうか……。  じゃあ、乗せてもらったお礼にその話をするよ。  ちょっと、珍しい話かもしれないけどさ。  オレがどうして子供と一緒にいるのか、その話をするね。
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