第一章

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 実はさ、オレとこの子は血は繋がってないんだ。  驚いた?  血縁上は親子じゃないんだ。今はずっと一緒にいるけどね。赤の他人のオレ達が、どうして今は一緒にいることになったのか、その話を今からするよ。  ああ、雨がひどくなってきたねえ。ワイパーが全然、役に立ってないや。  ほとんど前が見えないねえ。  オレは雨が窓に叩きつけられる、この激しい音が好きなんだよ。  もう、この世には自分一人しかいないって感じがしないかい?  この雨音がすごくいいんだ。  深夜に対向車とすれ違っても、黄色のライトしか見えないだろう。まるで魂がふわっと通り過ぎていくような、そんな感じがするんだ。  そうそう、えっと、子供の話だったね。  あれは去年のことだよ。  中国自動車道を走っていた時でさ、確か夕方だった。逆光の夕日がやけに眩しかったのを覚えているよ。キレイなオレンジ色の空だったね。  オレは左車線を走っていたけど、右側の車線から、二トントラックがオレを追い越して行ったんだよ。何気なくそのトラックの助手席を見たら、子供が窓からオレを見ていたんだ。  その二トントラックは、子供を助手席に乗せて走っていたんだよ。  結構、子供を助手席に乗せて走ってる奴は多いんだぜ。もっとも運転手が女の場合が多いけどね。  兄さんも時々、女の運転手を見るって?  最近はトラックを転がしてる女が増えてきたからね。  母子家庭の母親が、子供を預けるところがないってことで、子供をそのまま助手席に乗せて、働いているんだな。日本全国走り回って、家には時々しか帰らないんじゃ、子供を預かってくれるところもないだろうしね。
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