第一章

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 そういう子供って、運動しないからたいてい太っているんだけど、オレがその時に見た子供は、ガリガリにやせててさ、Tシャツの袖から出ている腕が、棒みたいに細いことがわかった。  トラックが通り過ぎて行った時に、ちらっと見えただけの、すごく短い時間だったけどね。  助手席に乗っている子供なんて、その時まで何人も見ていたのに、どうしてその子だけはっきり覚えていたのかと言うと、オレと視線が合った時、その子はオレに手を振ったんだよ。  思わずつられて、オレも手を振ったね。そしたら、オレの姿が見えなくなるまで、手を振りながら、ずうっとオレのことを見ているんだ。真っ黒な大きな目でね。妙に心の中の深いところに残るような、黒い黒い目だったよ。  その後は、オレも子供を見たことを忘れたんだけど、またその時の子供に、まあ、こいつだな。今は寝てるけどさ。こいつに会ったんだよ。それもその日の深夜にさ。  ああ、安心してくれ。子供を無断で連れまわっているとか、そういうことで一緒にいるんじゃないんだ。  どこまで話したかな?  深夜に、また子供に会ったって話だったね。  休憩と飯を食うために、サービスエリアに入ったんだ。時間は確か、一時か、二時か、とにかく夜中だったね。月も見えないような、暗くて重い夜だったよ。  売店で、お茶やら弁当やパンを買って、トラックに戻ったらどこからか子供の泣き声が聞こえるんだよ。  泣き声というのは正しくないな。  悲鳴だよ。  わんわん泣くような声じゃなくて、ひぃーひぃーって聞こえるんだよ。笛から空気が漏れているような、車に撥ねられた犬の断末魔のような、なんとも言えない声だよ。  どうも気になってね。運転席に買ってきた弁当やお茶なんかを置いて、子供の声のする方に行ったんだよ。  普段はそんなことしないよ。面倒に巻き込まれるのは嫌だしね。
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