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裕次郎兄貴は座っていたソファーから降りて床へ座り、寺河さんの家族を見た。
『お金なんて一円だって要りません。彼と一緒に過ごす時間さえあればいい…一緒にいれさえすればそれでいいんです。どうか、それを許して下さい…お願いします』
手をつき頭を床に擦り付けるほど下げた。
『ゆ…裕次郎くんっ』
寺河さんが直ぐさま裕次郎兄貴を抱き起こそうとしたが、裕次郎兄貴は頑として動かない。
『ふんっ!土下座したからどうだって言うんだ。バカなヤツほどすぐに土下座で解決したがる』
『それとも“こんな姿を見せられたら絆されて許してくれるだろう”と言う腹黒い考えでも起こしたんじゃないか?』
『兄さんっ!彼がどれだけ素晴らしい人間かも知らず、それ以上裕次郎くんを侮辱することは許さない!ましてや俺の愛する人だ!俺はもう寺河を…』
『いいかげんになさい!』
寺河さんの母親が立ち上がった。
『申し訳ありませんが、今日のところはお引き取りいただけませんか?私…気分がすぐれませんので…』
寺河さんの母親がそう言うと、後に続くようにみんな立ち上がり出て行った。
後には寺河さんと裕次郎兄貴だけが残された――
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