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数日後―――
昼休み、太中先輩と食事から会社の前まで戻ると、高そうな服を着たきらびやかな女性の乗るタクシーから寺河さんが降りてきた。
「それじゃあ…」
寺河さんが降りると同時に、女性はドライバーを促し、目を伏せタクシーを出し去って行った。
「ふう…」
重い息を吐いた寺河さんは、その時やっと俺達に気づき、『見られたか…』と言った苦い表情を見せた。
「美人だけど、えらくキンキラキンで派手な女の人だったな」
「………………俺の母親だ」
「「ええっ!?」」
俺と太中先輩は、もう見えないタクシーを探す。
「我が母親ながら確かに年齢より若く見えるが、あれで既に58だ」
「30過ぎの息子達がいるように見えん。どこの女優かセレブマダムかと思ったら…寺河の母親…あれが…」
「そうだ…あれがな」
かなりまいっているのか、髪を掻き上げ見せた顔は、疲労の色が見てとれる。
「やっぱ反対だと釘を刺しに来たのか?」
「半分はそうだが…残りの半分は…裕次郎くんのことでだ」
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