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夕方―――
「て…天道……」
帰ろうと立ち上がった俺に、太中先輩が座ったまま恐る恐る声を掛けた。
「くどいようで申し訳ないッスけど、違うッスから!」
「いや、まだ何も……」
俺は寺河さんを見た。
「お先に失礼しますっ!」
「あ……ああ…お疲れ様……」
寺河さんまで何か言いたそうだよ。
「先輩、それではっ!」
口を鯉みたいにパクパクしてから『お…お疲れ…』と辛うじて声を出してくれた。
裕典の良からぬ悪知恵と言うか、浅知恵と言うか、入れ知恵と言うか……
たいした人間じゃないけど、誤解されたまんまじゃたまったもんじゃないよ。
俺が無責任なヤリ逃げ男ではないと言うことだけははっきりさせたいだろ?
「今日は朝から精神的に疲れた……」
タメ息を吐き時計を見る。
定時に終わらせてもらえたから、昨日より一本早い電車だった。
あのガキ、もう来てるかな?やっぱ来ないかな?
そんなことを考えながら家のすぐ近くまで帰ってくると、
「すみません、天道さんですか?」
後ろから男の人の声に呼び止められた。
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