○今日から前進○

81/95
前へ
/1932ページ
次へ
次の日の朝――― 陽都くんは帰る前に、陽向と仏壇の前に行き手を合わせた。 「父さん、母さん……陽都を送ってくるよ。またこっちに来るから。見守っててやってよ」 陽向はそう言って二人が写る写真に微笑む。 「見守っててくれる?」 「大丈夫だ。特に母さんは強いし優しいから。従兄のアイツが何かしようものなら、夜中に夢枕に立って関節技かけてるかも」 二人で吹き出し、陽都くんは『お願いします』と再び手を合わせた。 そんな陽都くんを、陽向は寂しそうな目で見つめている。 心配事だらけで不安もあるんだろう。 「おはよう!陽都くん、行ける?」 玄関が開き、裕太郎の声が聞こえた。 裕典が今回も連れて行ってくれるんだ。 「あの……いって……きます…」 陽都くんは恥ずかしそうに小さな声で仏壇に向かって声を掛け、ゆっくり立ち上がろうとした。 「えっ……」 突然、ハッとしたように陽都くんは顔を上げ前を見る。 「今、『いってらっしゃい』って……気のせいかな?」 「さあ……どうだろうな」 陽向は『くくくっ…』と笑い、仏壇に向かって『ありがとう』と言うと、陽都くんの背を押し前に進んだ。
/1932ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6589人が本棚に入れています
本棚に追加