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『ん・・・』
揺れる電車の中、彼は大きな揺れにより目を覚ました。
『次は~飛鳥~飛鳥~お出口は右側です』
(次か・・・)
アナウンスを聞いた彼はけのびをしつつ半目で窓の外をぼんやり眺める。
(また、あの声・・・)
最近になって頻繁に聞くようになった悲痛な叫び、彼には全く聞き覚えもない。しかし夢にしてもくっきりと少女の言った言葉が記憶に鮮明に残っていた。
(霊の仕業かな?)
冗談まじりでそんな事を思いながらため息をつき
(俺にそんな叫びを聞かせてどうしよってんだか・・・)
と思いながらもう一度ため息をつく。
しばらくして飛鳥駅につき彼は電車を降り、自動販売機の前に立ち、通りすがって行く人の群れが少なくなるのを待つ。
彼は基本、人混みの中や多い所は好きではない。
自分を含む『人間』があまり好きではないからだ。
人は常に自分勝手な生き物である。私利私欲の為に生きているクセにそれを他人が態度に出すと嫌う。
そんな所が、そんな所を持っている自分が嫌いだった。
しかし彼は自分のそういう所を表に出さずただ思うだけだった。というより何かに対する『欲』があまりないのだ。
それに彼はいつからか争い事を嫌悪するようになり、私欲の為に誰かを巻き込むことも嫌っていた。
様々な矛盾と歪みを抱え、彼はただただ生きていた。
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