煙草より苦い……

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『煙草より苦い……』 俺は桐島さんの横にいて、いいのか? 桐島さんは、本当にこれで幸せなのか? もし桐島さんが、今、幸せでも いつかは飽きられる。 いつかは捨てられる。 そんな辛い思いをするのなら、 いっそのこと桐島さんの横から、 いなくなろう。 そう思っているのに…… 誰かと一緒にいられるのが 嬉しくて、仕方がなくて。 一度覚えた、人の温かさを手放せない。 離れたくないと、体が勝手にしがみつく。 ―――しがみついて、離れない。 そんな俺を、 ぎゅっと、そっと、抱きしめてくれる 手が、腕が、 優しくて、温かくて、 嬉しいはずなのに…。 この優しさも、 暖かさも、 愛も、 すべて、 亡くなった奥さんが 貰うはずだったものだと思うと、 心が締め付けられる。 体中が痛い。 申し訳なくて、涙が押し寄せてくる。 『本当に、申し訳ない』 そう思っているのに、 そう思っているはずなのに、 抱きしめられた手を振り払えない。 ああ、またこうやって叶わない恋をするんだな。 またああやって、苦しい思いをするんだな。 頭では分かっている。 分かっているのに……………。 俺が、泣きじゃくりながら言えたこと、 それは、 「俺で、ごめんな。」 ただ、それだけ。 桐島さんから口づけを交わされた口の中は、 煙草より苦い、恋の味でいっぱいになる。 さらに、泣きそうになった。
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