とある日。

4/6
前へ
/14ページ
次へ
その目には、軽蔑と落胆の色が見えた。 首からは、大量の赤い液体が、噴水の様に吹き出す。 「お前は本当に馬鹿だなあ」 刺した自分はそう言う。 「にっ……こっ……」 刺された自分は言葉を発そうとするが、息をするたびに喉から血が吹き出す。 「お帰り……」 刺した自分はそう言うと刺された自分の首を掴んだ。 「たっ……いま……」 刺された自分はそう返すと、息をしなくなった。 否、自ら止めた。 刺した自分は指に力を入れて、刺された自分の首を折った。 刺した自分の目からは、液体が垂れていく。 泣いていた。 激しく泣いていた。 自分たち兄弟は、どこから間違えてしまったのか。 そう思いながら。 双子の弟の亡骸を、腕の中でしっかりと抱きしめながら、兄はナイフを自分の首へと……。 ある日弟はおかしくなった。 弟が小学生の時、両親が死んだ。 自殺だった。 このとき弟はまだ“死”というものを知らなかった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加