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新人店員ピザまんの初仕事は、倉庫の整理に行ったあんまんの穴を埋めるレジ打ちの作業だった。
あんまんに「そこまで客は来ないと思うから安心しろ」と言われながら教わったレジ打ちは案外難しかった。
頭の中でやり方を反芻していると、例のBGM(彼はそれを"幕の内演歌"と名付けた)が店内に響き渡った。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃーいっ」
「あっ…い、いらっしゃいませ!」
やはり緊張しているのだろう。上手く声が出ずにおにぎりとサンドイッチよりワンテンポ遅れてしまった。
客は二人、若い男女だった。カップルかと思われたが、女の方がかなり若かったので、違うかもしれないとピザまんは思った。
「これ、お願いします…」
「ご、ご利用ありがとうございます」
―何故だろうか、この女性は終始何かに怯えている気がする…
セミロングの紺髪を二つ結びにした彼女は、しきりに周囲をキョロキョロと見渡し、ときたまピザまんを見て悲しそうな表情をしている。
―え、俺?
「あ、あのっ」
「はい?」
「あんまんちゃん…あ、安藤さんのことなんですけど。
もしかして…辞めちゃったの?」
「は?」
「ああっ、べっ別に君が嫌とかじゃなくてねっ!?ただ、ただいつもいる人がいないから…そのっ、心配になっちゃってっ!」
「とりあえず落ち着けよ」
オロオロする客(女)に斜め後ろにいた客(男)が見かねて声を掛ける。
すると、客(女)がピザまんの目の前でとんでもないことをし始めた。
「呑気なこと言わないでよお兄ちゃんっ」
「ちょっ、お客様!?
あ、あの、大丈夫ですか!?」
「あー、大丈夫大丈夫。いつものことだからな」
「ええええ!?」
あろうことか、レジの前で客(男)の胸ぐらを掴み、激しく揺さぶったのだ。
慌てるピザまん。これで他にも客がいたら大事になっていただろうが、今は彼女ら以外の客はいない。
思わずピザまんは店の奥にいたおにぎりとサンドイッチに「助けて下さい!」と目で合図した。
それを読み取ったらしい二人は、苦笑しながらこちらに駆け寄って来た。
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