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ピエールの予想は当たった。
レジにいた女性は面接もせず彼を店長に会わせることもせず、彼にをロッカールームへ連れていきエプロンを渡すと
「今日はその格好でいいけど、明日からは出来るだけラフな服装で来いよ」
とだけ言ってレジへ戻ろうとした。
「あ、ありがとうございます!えーっと…」
「ああ、まだ名乗ってなかったな。
私は安藤 佐智子。《コンビニYUKAWA》のチーフだ。基本レジに居るし、分からないことは私かお前の指導担当に聞けばいいから」
「はい、えっと、ピエールです。不束者ですが宜しくお願いします」
「あいよ。ああ、それからいちいち名乗らなくてもいいから」
「は?」
「お前のことはみんな知ってるから。"イタリアからの日本語達者な留学生"ってことで」
そう言って軽く微笑むと「じゃあな。シフトは明日決めるから明日もちゃんと来いよ」と言って、今度こそ部屋を出た。
一人残されたピエールは、白とオレンジを基調とした、真ん中にほわほわとした中華まん(しかも顔が描かれている)のアップリケが付いたエプロンを見つめながら、安藤の言葉を思い出した。
『今日はその格好でいいけど、明日からは出来るだけラフな服装で来いよ』
恐らくこの言葉に深い意味などない。彼女は本当に今の自分の格好がこの店の雰囲気に合わないからそう言ったのだろう。
しかし、彼にはこうとれた。―そんな堅苦しくならなくても、お前は十分日本でやっていける、と。
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