天の川

48/68
前へ
/338ページ
次へ
ヘルメットは被ってない。 だから初めて、テツローさんの顔を見た。 危険な香りが漂う、目と鼻がシャープな男だった。 少し長い黒髪。 端正でキレのある顔立ちは、温かなナオ君とは正反対で。 近寄りがたい感じ。 「あんた、死にたくないだろ?」 男を見下ろすテツローさんのどす黒い声は、女のあたしにとってもおぞましきものだった。 「は、はい、助けてくだ、ください、頼みます頼みます」 ロン毛を振り乱し、男はテツローさんのバイクに向かって土下座した。 ガッ!! テツローさんの足の底が、男のみぞおちに沈む。 「い゛っ!!」 カエルのような声を上げ、半回転する男。 「いいか。お前の車のナンバーは取ってある。 で、俺の兄貴は警察官だ。 お前の住所は、検索エンジンですぐさま分かる。 もし、俺達のこと口外したら……腐りきった脳ミソ柔らかーくしろよ」 そう釘をさしたテツローさんが足を男の腹から地面に戻すと、男は汗を撒き散らす勢いで、転ぶように走り去った。
/338ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1688人が本棚に入れています
本棚に追加