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どれくらいたったっけ。
……多分、2分もかからず。
歯科か眼科か耳鼻科かは分からない、小さな病院のような建物が幾つか並ぶ車道で。
黒は信号に引っ掛かった。
「顔拭いたほーが様になる?」
あたしは泥んこの顔面を人差し指で差し、テツローさんにそう尋ねた。
彼は隣ですやすや眠るナオ君をチラリと見やってから、鋭い切れ目をあたしに向けた。
コンビニのトイレで顔を綺麗に洗ったらしいテツローさんの黒い瞳こそ、カメラのレンズに酷似してる。
「人間の眼の造りを、カメラに応用してるんでしょ?
中学の理科で、なんかやった気がする」
「……まあ、説明すんのたりぃから、そー思っとけ」
乱暴に返答され、あたしはそれ以上カメラの話題を自分から出すのを止めた。
すっ、っと。
テツローさんは肩を捻ってから、カメラをあたしに向かって構えた。
漆黒に一筋の光が入ったレンズは、大きな瞳みたいでどきっとした。
まるでレンズと彼が兄弟みたい。
「あたし笑った方がいい?」
静かに、積極的な発言をかます。
テツローさんを知りたい好奇心も、どこか紛れてる。
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