天の川

9/68
前へ
/338ページ
次へ
緊迫をぶち壊すように、雨に濡れた陰湿な笑みを溢す。 「っ…」 雨と湿気で蒸した浴衣が体中べっとりはり付いて、まともに空気を吸えない。 ザー……。 冷たい水が、とめどめなく頭に打ち付けられて、その鋭さは鉄屑のようで。 「はは……」 30代過ぎくらいの無精髭を顎に生やした男は、前歯を見せ笑った。 迫る包丁の先に、あたしの肩の震えは一向に止まらなくなっていた。 「た……助け」 青ざめたあたしの唇は、お経のごとく助けを乞う。 「お願い来ないで……お願い」
/338ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1688人が本棚に入れています
本棚に追加