彼女

8/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「行くぞ、香織」 香織は機械のように立ち上がった。巻きかけていた包帯が垂れ下がる。 「香織...!」 その腕をつかんだが即座に振り払われた。 俺はため息をついた。 「わかりました。彼女を帰します。けれど彼女の怪我の手当てがすんでから、です。それくらいいいでしょう?」 「ま、許してやるよ」 クソムカつく男に許可をもらう。 すると彼女はおとなしく再び席につく。マジムカツクアノオトコ。 「その女のどこが気に入ったんだい?」 甲斐甲斐しく彼女の手当てをする俺に男が聞いた。 「好きになるのに理由が必要ですか?」 「あ?」 「俺は必要ないと思いますよ。仮にあったとしてもあなたには言いません。彼女への口説き文句にするので」 「うへぇ...異国の人間は恥というものを知らんのか」 「日本人はもっと積極的になるべきかと」 「お前もひどい男に見初められたものだな」 「さあ、できた。」 彼女の着物を着つける。女中さんに習ったかいがあった!なかなか綺麗にできたと自画自賛。 「あ、待って。仕上げ」 頬に軽くキスする。 男がうげーと顔を背けたが知るものか。 香織は相変わらず、無表情。 でも俺は構わなかった。にこにこ笑ってその日は彼女を見送った。 その日は。 恋する男子は強いのだ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!