デート

6/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
パシィーーン!! 心地よい音が響いた。 驚いた。驚いたあとに左頬がじんじんと痛かった。 「ぁ...」 微かな声が聞こえた。 俺は倒れるくらい強い力でほおを張られてしまった。 誰に? 彼女に。 彼女はとても驚いた顔をしていた。俺以上に驚いた顔だった。ショックを受けていると言ってもいい。 「ふふ...あはははは!」 いえ、俺はけしてマゾではないのだが。 立ち上がる。 「君にも感情はちゃんとあるようだね。そうだよ、ないはずがないんだ」 「...!」 「それでいいんだよ。嫌なら今みたいにスパーンと叩いてくれればいい、ね?」 彼女はまだ驚いた顔をしていた。 「本当は今日、これを渡そうと思っていた」 鞄から箱を取り出す。上品な創りになっている箱だ。開けて見せる。 中には金色の指輪が入っていた。 「エンゲージリング。結婚指輪だよ。僕らの国では永遠を誓った恋人へ送るんだ。でも」 「君はまだ僕が嫌いなんだね。いいよ、それで。それでいいんだ。」 抱き寄せる。これぐらいは許してもらおう。俺はこりない男なんで。 「だからこれはまだ渡さない。」 「君が俺のこと好きって言ってくれたときに改めて渡そう」 愛の言葉のかわりに俺はそう囁いた。 彼女はまだ驚いていた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!