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交差点に突っ込んできたトラックに、男性ははね飛ばされたのだった。
その光景を目撃したA君は、思わず席を立ち、現場に駆け寄った。
辺りには、ゴムが焼けたような臭いが立ちこめていた。おそらくトラックが急ブレーキをかけた時にタイヤが摩擦で焼けたのだろう。その臭いのせいで、集まってきた野次馬は誰もが口元を押さえていた。
A君も他の人と同様に口元を押さえ、声を出せないでいた。
しかし、皆が無言だったのは、その臭いのせいだけではなかった。
トラックに轢かれた男性が、もう人間の形をしていなかったからだった。
A君は胃の中のものが逆流しそうになるのを必死で抑えた。
その時、A君はある事に気付く。
既に肉の塊と化した男性の側には、おんぶされていた老人の姿がなかったのだ。
どこか他の場所まで飛ばされたのてばないかと、A君は周囲を探した。しかし、老人の姿はどこにもなかった。
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