串の町4丁目

10/17
前へ
/17ページ
次へ
白い手が入り口にぬっと現れて扉の縁をつかんだ。 「わるい子、わるい子だあれだ?」 おじさんとわかる声、でも少し高めの声。 「ゾウさん壊したのだあれだ」 節をつけて歌うように声は続けた。 「公園汚したのだあれだ」 声の主が扉から出てきた。 かなり小柄なおじさんだった。 子どもより少し大きいぐらいの背丈。 しかし横幅は異常な程太い。 まん丸に近い程だ。 はじけんばかりの体は白いシャツにサスペンダー付きの黒いパンツに包まれて揺れている。 頭にはくたびれたハンチング帽をかぶっている。 白い丸顔、ぎょろりとした目。つぶれたような鼻。どれもが不自然に歪んで見える。 だが一番目を引くのは冗談みたいにでかい口だ。 耳まで裂けているみたいに、三日月型に伸びている。 その口がニタァと笑った。 …人間じゃない。咄嗟にそう浮かんだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加