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男はニタァと笑ってそのまま黒田を見た。
「お、オレじゃない!違う!」
男はまたニタァと笑って、次の瞬間、田辺の真横に現れた。
「…じゃあ、君?」
「…ち、違う」
うーんと男は唸って首を傾げた。口はそのままだ。
そして、
「うそつき」
男が座り込んでいた田辺に覆い被さった。
「わるい子、みいつけた」
「ゾウさんのお鼻かえして」
きらり、と何かが光った。
そして聞いたことがない音がした。男がさっと飛び退いた。
田辺の顔の中心から噴き出している真っ赤な血。
ゆっくり、ゆっくりと広がっていく血だまり。
驚愕して見開かれた、目。
幹介にはそれらがスローモーションで見えた。
鼻が、ない。
田辺の悲鳴が一拍遅れて始まった。鼻を探すように押さえて、痛みにまた手を離す。
そして悲鳴をあげた顔のままうつ伏せにどさりと倒れた。
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