28人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、田辺は何も言わない。
体を起こした田辺がいつの間にかうずくまっている。
「大丈夫か?」
頭でも打ったんだろうか。
「…無理」
と言うなり、田辺は顔をこちらからそらして吐き出した。
「うわ」
これには幹介もうんざりだ。
帰りたくなってきた。
「気分悪いなら言えよ、うえ」
少しむせた様子の田辺に黒田が言い捨てる。
「水…」
公園には小さな水道があったが、水をちゃんと買ってきてあげた方がいいだろう。
「オレが買って、」
買ってくるよ、と言うつもりだった。
落ち着いたら帰ろうぜ、とも。
そのときふと幹介の後ろから風が吹いた。
風が吹いたんだと思った。
やけに冷たくて、確かにひゅうっと音がした。
だけど実際それは風でも何でもない、扉が静かに開いた音だった。
最初のコメントを投稿しよう!