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寂れた平屋、周りには人気もなく、まだまだ暑い季節にもかかわらず肌寒さを感じるような場所に、幻想郷の外の人間、所謂外来人が営む人生相談所『烏の巣』は立地している。
一見すれば隣の民家となんら代わり映えのしないただの平屋であるが、その入り口には店の名前の書かれた提灯がぶら下がっている。
中に入れば、昼間だというのに夕暮れ時のように薄暗く、部屋の奥から吹く気味の悪い風が頬を撫でる。
卓袱台と和箪笥、かまどもあり、生活を送るにあたり問題ない程度の家具は置かれているが、あまりにも片付けられていて生活感が全くといって良いほど感じられない。
それでもそこに人が住んでいると確からしく思えるのは、壁にかかった、黒く、なんの飾り気もないくたびれたロングコートがあるからだろう。
このコートの持ち主こそ人生相談所『烏の巣』カウンセラー サカエダである。
いつも黒いスーツを身に纏い、黒いネクタイを絞め、黒い革手袋をはめ、よれたコートを羽織っている烏のような男。
眠たげで、何事にも興味を示していないかのような瞳は光を吸い込んでいるかのように深い黒色をしていて、背中の中ほどまである長い髪はうなじの辺りで一つに纏められている。
幻想郷においては珍しく能力を持たず、飛ぶことは勿論、弾幕を出すことも、戦闘すらも出来ないほどに弱い。
そんな彼が幻想郷に来てから今まで、およそ半年間を生き延びているという事実はまさに奇跡的だと言える。
運か、はたまた実力か。
いずれにせよ、今回はこの男の物語である。
ただの人間のごくありふれた足跡、お楽しみ頂ければ幸いだ。
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