こげ茶色の髪の女

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 今日の天気は曇りだった。  いつ雨水を降らせるかわからないほどの分厚い雲が、空一面を覆っていて薄暗い。  男は駅から出ると急いで帰路につき、自宅まで走ったのだった。  家に着いた。  息を切らしつつ、ドアノブに手をかける。  ドアノブを捻ったとき、男は鍵を開けるのを忘れていることに気が付いた。  これじゃあドアが開くわけがない、と男は思った。  玄関の扉は開いた。  男は顔をひきつらせて驚いた。  鍵を閉め忘れたのか? いや、まさか……  男は嫌な予感がした。  バタンっと扉を開けると、急いで家の中に入る。  玄関から入ってすぐのところにあるリビングへ向かった。  そこで覗きこんだ部屋の光景は、愕然とするものだった。  綺麗にしていたはずの部屋の中は、タンスにしまっていたはずの服や、棚に直していた筆記用具やメモ帳、棚の上などに置いていた置物などによって、めちゃめちゃになっていたのだ。  これでは足の踏み場すらもない。  さらに、窓は開けられ、イスは倒され、引き出しは開きっぱなしとなっていた。  カーテンが風に揺られ、波打っている。  仕事帰りの男を出迎えるには散々な状態だった。
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