第零章【THE FOOL】

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第零章【THE FOOL】

愚者 THE FOOL/人の生の出立。 白い雪がちらついている。 降り積もりもせず、あいまいな速度で、徐々に徐々に降ってくる。 そのなかにひとり、公園でぼんやりとたちすくんでいる少年がいた。 頭が白い。 雪が降りつもったわけではない。 もともと白いのだ。少年はアルビノなのだから。 その姿は今にも掻き消えそうで、まるで真冬の幽霊のようだった。 「……」 少年はひとつ、息を吐き出すと、公園の門を通り過ぎてゆく。 「大丈夫だよ」 そう、言い残して。 おなじ場所でおなじ時間を過ごして、どれだけ傍にいたとしても、時はひとしく訪れる。 それがたとえどのような思いで過ごしたのか、苦しかったのか、それとも幸せだったのか。 そんな些細なことは時間という概念には関係など、ない。 どこにも存在していて、決して逃れられないそれは、どんなものにも平等だ。 高齢者でも、青年でも、子供でも、赤子でも。 誰も逃れられないそれは、今も脈々と受け継がれている。 概念として。 雪はやがて雨になった。 みぞれまじりのそれは、ぬるい雨ながらも容赦なく体を冷やしてゆく。 (マガキ)はその冷たい雨にも負けぬほど、冷たい目をしていた。 傘を手に、雨水が靴下を湿らすも、関係ないといわんばかりに足を進めている。 黒く短い頭髪に、黒いながらも僅かに滲む紫の目。 傘を持つ手は、凍えそうに白い。それでも、電燈もまばらな暗闇、そうそう見えるものではない。 「……」 公園を横切ろうとしたとき、ちいさな影が、ふっ、と横切った。 真っ白な影は、幽霊かと見紛うほどの白さだった。 それでも、水音を鳴らしながら走る姿は、たぶん人間なのだろう。 籬はさして興味もなさそうにそこから視線を外し、おのれが住んでいるマンションへむかった。 時は、決して止まらない。 止まるのは、人間の足だけだ。 時間は流れ、人を愚弄するように打ち寄せてくる。
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