第三章【THE EMPRES】

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部屋の前で制して、タオルを二枚、渡す。 明るい部屋のなかはまぶしいけど、ようやくしっかりと二人の顔を見ることが出来た。 男の人はもじゃもじゃとした、まるで映画の金田一耕介のような頭に、ライディングウェアを着込んでいて、女の人はストレートの髪を上で結い上げて、同じくライディングウェアを身につけている。 二人とも、籬先生に良く似ていた。 「おー、悪いな」 「ありがとう、えっと、確か観世水くん、だったわよね?」 「どうして、おれの名前……」 「んー……。悩める弟が相談してきたときに、ちょっとね」 「ちょっと」という仕草をして、ようやく温まってきた部屋のなかで、ほっと息をつく。 どうやら、本当に寒かったらしい。 自分も、寒かったけど。 「あー。あったかい」 「そうだ。コーヒー、あるんですけど、飲みますか?」 「おかまいなく。メールしといたし、すぐに帰ってくると思うから」 「でも、コーヒーの粉、はやく終わらせたいし……」 名前を聞くのを忘れていた。 口ごもっていると、そうだ、と思い出したように胡坐をかいて座った男の人が膝を叩く。 「名前、言ってなかったな。俺はエ霞。こっちのお転婆は睡蓮。よろしくな」 そう言って、エ霞は手を差し出してきた。反射的に手を差し出して、握手をする。 でも、よろしく、ってどういう意味だろう。 こうして会うのはたぶん、今日で最初で最後なのかもしれないのに。 「エ霞さんと、睡蓮さん」 「おう。呼び捨てでいいぜ。真」 いきなり名前で呼ばれて、ぎくりとする。 下の名前まで知っているのか。 それでも、年上だからと渋ってみせると、「そんなの些細なことだろ」と大きな声で笑われた。 でも、けじめだ。そう、父から教えられてきた。 「……コーヒー、淹れてきます」 後ろのほうで何かを殴るような鈍い音がしたけど、気にしないことにする。
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