久坂玄瑞

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松陰先生の死で、若い志士達は自分達の国である 日の本が強く在る為に邪魔な幕府を打ち破ろうと する動きに火を点けてくれました。 目指すものを一つにと、絞らせてくれたのですよ? そして……稔麿君の死、は……。 稔麿君、どこかで見ていますか? 京に集い戦火をあげたのは、貴方の死、あったからこそなんですよ? 貴方の命がどれほど大きなものだったか、ここに集まった者達の数を見れば……一つの藩を動かしたのを見れば、分かりますか? 残された者がどんな痛みを抱えるかを松陰先生は見出だせなかったかもしれませんが……。 結果だけを見れば……松陰先生も稔麿君も、死と生に不朽と大業があったからこそ、沢山の人間が動 いた。 ならば僕もこの命を……。 「文はどうする気だ? 女子一人残してお前は」 「っ」 まったく……本当にもう、止めてくださいよ。 それだけは何があっても絶対に……思い出したくなかったというのに。 思い出そうとしなかったのに……。 「お前の帰りを待っているだろうとい」 「桂さん」 それ以上は聞きたくなくて、桂さんの声を自らのもので遮りました。 「何も言わないでくださいよ」 名前も思い出も、何も。 一言たりとも触れて 「そんな顔をするなら……他の道を見つけろっ」 どうしようもない愛しさを……溢れさせないでください。 平静さを装ってる僕を乱さないでください。 「お前のことだ。一区切りついたところで撤退を命じるつもりだったろう? 文を想うなら、お前もここで共に撤退しろ。 残ろうとするな」 「はは……。松陰先生の友となると、松陰先生の弟 子であった僕の考えを面白いぐらいに読み取ってくれますね。僕としてはまったく面白くないので すけど」 からからと笑って見せれば、桂さんは困り顔で腕を持ち上げてきて……。 武骨な手の指先で、僕の頬をそっと……撫でてきました。 どこか松陰先生を思い出させるその一撫で。 「お前は生きることに大業の見込みがある。だから……玄瑞まで逝ってしまうなっ」 懇願するような絞り出す言葉に、戦いの最中に決めた覚悟が揺らされてしまいそうになりますね。 ……いいえ、本当は。 「久坂殿!! 邸内に鷹司卿の姿がありました!!」
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