久坂玄瑞

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誰かの代わりなんて、どんなに似ている人がいた としても、代わりになるなど……到底不可能なんで すよ。 それは何よりも一番に僕が……松陰先生に憧れて松 陰先生のようになりたいと思い、松陰先生が撒い た種の中でも松陰先生の意思を継ぎ誰かに教えを 与えれると思っていた僕が。 分かっているのです。 『久坂様は兄様に捕らわれすぎです』 ふっと、息を吹き掛けるように柔らかな声が頭の中に降り落ちてきて……。 『兄様でないのに兄様になろうとしている久坂様が……』 ねえ。貴女は僕を責めているのですか? どこからか僕を見ているのですか? だから今…… 『時に嫌いに……』 そんな言葉を思い出させるのですか? 「桂さん。僕の代わりはいません。代わりなんてきっと誰もできないんです。だから……」 眉を寄せた桂さんを見上げて、腰に下げている脇差しを鞘ごと抜くと、それを桂さんに押し付けるようにして握らせました。 「僕にしかできないことをすると決めたんです」 「それは……助言を求めているのではなく、もう変えれないことなんだな?」 「はい」 「僕は……」 「桂さんのせいじゃありません。これは誰も悪くないんですよ? 松陰先生も稔麿君も僕も、誰一人桂さんを責める人はいませんよ」 それは昔からの馴染みなのだから、桂さん自身がよく知っていることですよね? 今にも泣き出しそうな顔をしている桂さんに、今はきっと……普段通りの顔を向けれていると、そう 思います。 ……さて、これ以上はもう時間が許さないですから。 桂さんから忠三郎君にと目を向けると 「向かいましょうか」 僕にしかできないことを成しに、行きましょうか。 撤退する者達と脇差しを桂さんに託すと、僕と忠三郎君の二人は、鷹司卿がいる邸内に向かいまし た。 すんなりと侵入できる裏口から邸内にと入り込めば、しんっとした気味の悪い静寂が漂うそこ。 忠三郎君が案内してくれた部屋の戸を開けると…… そこに鷹司卿は、居ました。
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