3276人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
誰かの代わりなんて、どんなに似ている人がいた としても、代わりになるなど……到底不可能なんで すよ。
それは何よりも一番に僕が……松陰先生に憧れて松 陰先生のようになりたいと思い、松陰先生が撒い た種の中でも松陰先生の意思を継ぎ誰かに教えを 与えれると思っていた僕が。
分かっているのです。
『久坂様は兄様に捕らわれすぎです』
ふっと、息を吹き掛けるように柔らかな声が頭の中に降り落ちてきて……。
『兄様でないのに兄様になろうとしている久坂様が……』
ねえ。貴女は僕を責めているのですか?
どこからか僕を見ているのですか?
だから今……
『時に嫌いに……』
そんな言葉を思い出させるのですか?
「桂さん。僕の代わりはいません。代わりなんてきっと誰もできないんです。だから……」
眉を寄せた桂さんを見上げて、腰に下げている脇差しを鞘ごと抜くと、それを桂さんに押し付けるようにして握らせました。
「僕にしかできないことをすると決めたんです」
「それは……助言を求めているのではなく、もう変えれないことなんだな?」
「はい」
「僕は……」
「桂さんのせいじゃありません。これは誰も悪くないんですよ? 松陰先生も稔麿君も僕も、誰一人桂さんを責める人はいませんよ」
それは昔からの馴染みなのだから、桂さん自身がよく知っていることですよね?
今にも泣き出しそうな顔をしている桂さんに、今はきっと……普段通りの顔を向けれていると、そう 思います。
……さて、これ以上はもう時間が許さないですから。
桂さんから忠三郎君にと目を向けると
「向かいましょうか」
僕にしかできないことを成しに、行きましょうか。
撤退する者達と脇差しを桂さんに託すと、僕と忠三郎君の二人は、鷹司卿がいる邸内に向かいまし た。
すんなりと侵入できる裏口から邸内にと入り込めば、しんっとした気味の悪い静寂が漂うそこ。
忠三郎君が案内してくれた部屋の戸を開けると…… そこに鷹司卿は、居ました。
最初のコメントを投稿しよう!