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倒幕を掲げる長州は、幕府からしたら……言わずもがな、敵であり。
本来敬わなければならない天皇のいる朝廷の命から背いてしまった。
朝廷からすれば、自分の命に背いた長州はもはや厄介以外何物でもなくて……。
政はすっかり幕府に取り仕切られているのですから、戦を起こしてしまった長州を庇っても……利点など一つも無いのですから。
……それに気づかずに、鷹司卿に懇願するということは何とも……滑稽で愚かなのでしょう。
自分が滑稽で愚かで、怯えた眼差しに見下す色を混ぜた鷹司卿は、忠三郎君が呼び止めるも空しく……部屋から出て行かれました。
「は……はは」
「久坂殿?」
もう……笑いしか込み上げてきませんよ。
失う痛みは忘れたいぐらいに知っているから、これ以上そんな痛みを味わいたくなかったというのに……。
どんなに足掻いてももう……刃の矛先は長州にと向いてしまった。
貴女の……文のいる長州にと。
『久坂様は、夢を叶えて下さい。久坂様が望むことを久坂様が』
貴女と共に、貴女との子とも共に……松下村塾のような温かなあの場所を築きたかった。
教えられたもの、培ったもの、得たもの……それを未来にと託していきたかった。
それなのに僕はここで……朽ちるのか?
何も成せないまま……。
大業の見込……あらば……。
いや、待て。
「久坂殿は早くお逃げくださいっ!! 敵が来てしまいます!!」
座したままの僕に焦燥の色を混ぜた声を張り上げた忠三郎君に目を向けた時
「玄瑞!!」
屋敷から僕が出てくるのを待っていたのか……そうだとしたら、出てこない僕を探しに来た様子の九一君が、部屋にと飛び込んできました。
忠三郎君同様、焦燥を浮かべて。
そんな彼等は、僕の顔を見るなり驚いたように目を見開いて……。
まぁそれもそのはず。
自分でも分かる程に僕は……穏やかなのですから。
「九一君と忠三郎君はここから一刻も早く撤退してください」
「久坂殿はどうする気なんですか!?」
僕?
それに対しての答えを僕は見つけたのですよ。
大事なものを守る術を……。
その大事なものの中に
「僕はキミ達を逃がします」
入ってるものは……目の前にもありますから。
だから僕は……。
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