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戦の最中に抱いた覚悟は……覚悟だとしても、浅かった。
それにあれではきっと、怒られていましたね。直ちゃんに。
「久坂殿!! 笑ってる場合ではないですよ!! 自分は……久坂殿を残して逃げるなんて、できませんっ」
「ああ、間違いました。逃げて、ではなく、証、となってください」
「あ……かし?」
僕の前に詰め寄ってきた忠三郎君は、僕の言葉に怪訝に眉根を寄せました。
……僕の決めたこと。
それは、責任を取るために自らの手で自らの命を絶つものであり、ただそれをしてしまえば……。
その死に方をひどく嫌う直ちゃんに、怒られてしまいます。
それはそれは、晋作君に対するように、強烈な拳をおみまいされることでしょう。
そしてあの子は……自分の事以上に、泣くことでしょう。
そうしない為にも
「忠三郎君。あなたはどうか、生きて、その若さを生かして、簡単に身動きの取れない僕達の藩主の代わりに、長州の国を思う気持ちと無罪を……一人でも多くの人に伝えてください」
長州、という名前だけで逆賊だと捉えられてしまうのでは、長州の民があまりにも報われませんから。
だからその見方を少しでも変えてもらいたく、忠三郎君にそれを託す。
思いを込めて語られた言葉には、伝わる力が秘められていますから。
それをあの子のおかげで……知りましたから。
忠三郎君は僕のお願いをどうすればいいのか考えているようで、なかなか返事をしてくれませんが……
「どうかお願いしますね? 伝える人が長州には必要なんですよ」
「久坂殿!? っ。わ……分かりましたよっ!!」
頭を下げ額を床につけてしまえば、忠三郎君は了解してくれました。
顔をあげれば、渋い顔をしていますが……忠三郎君は今まで僕を慕ってくれていましたから、僕の意を汲み取ってくれるの、ちゃんと知っていますよ?
「止めてくださいよ。その……自分を分かったように見るの……」
「おや。ばれていましたか。忠三郎君はあの子のようにいい子ですから、きっと長州を救えると信じてますよ」
「あの子?」
「大事な子です。大事だから、忠三郎君に託しますね?」
大事でした。
同じ大事さを忠三郎君に対してもありますから、託せるものを託すのです。
……ああ、それと
「長州に帰ったら、晋作君の力にもなってあげてください」
「高杉殿? 久坂殿がそう言うのでしたら……」
晋作君も、僕にとって大事ですからね。
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