久坂玄瑞

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ああ……死ぬのは、大業を見出だせなければ恐ろしいものだと……そう思っていました。 ですが、僕の死は……来島さんと僕の死は、各地にある戦禍の火種を大きなものにときっと変えれるでしょう。 稔麿君達によって耐えてきた長州の志士を奮い起たせ。 崩れた長州の志士の死は……必ずや、日本の隅々にと知れ渡り奮い起たせると。 そう思うと……全身に走る突き抜ける痛みは然程感じません。 溢れだしていく熱も、濃い鉄の香りも気にならず……。 どこか、ひどく穏やかな自分がいる。 正直、文を置いて逝ってしまうのには……嫌だと、そう抗いたい部分もないわけではありません。 文の為に生に縋って抗って、這ってでも生き延びたい。 けれど……今なら、宮城君の気持ちが分かります。 ひどく……分かりますよ。 周りに笑っていてもらうのを望み、それを見ながら笑って逝ってしまった宮城の気持ちが。 そして……。 稔麿君。 貴方の気持ちも……今の僕と同じ、ではないですか? あの日……。 空は明るみ、緩く流れる風を肌で感じながら見つけた稔麿君の姿。 確かに在ったあなたのその姿に、見た瞬間にどうなったかを悟った僕の頭は体に悲鳴をあげさせる程痛みましたが。 それでも、心は……。 幸せ……なんですね と、分かったんですよ? 感じとったんです。 夥しい赤黒色に染まりながら、周りに転がる累々とした死体に囲まれるようにしても……あなたは。 稔麿君は……柔らかく、微笑んでいたから。 何も怖くないと……むしろ、何かを掴み得たんだと、そう思わせる顔をしていたんですよ、稔麿君は。 幸せで、幸せで……。 堪らなく幸せで。 心を幸せに満ちさせて、逝ってしまったのですよね? あなたは。 それはきっと……逝った先に幸せが在るのだと、そう分かっていたからじゃないですか? そうだとしたら……僕もそれ、分かります。 腹を裂かれて溢れる僕の魂の行き先は、僕の望む幸せの在処ですから。 そこに僕は逝くのだと……確信がありますから。 幸せの在処……。 文の魂に、僕はこれから先永久に……寄り添うのです。
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