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ちりー……ん ちりー……ん と、日差しの下、温い風がゆるりと漂い占めるなか、風流な音がなんとも耳に心地よい。 愛らしいと、素直に思える音に耳は楽しまされ、暑さを鬱陶しく感じる足取りも、弾むというものです。 沢山の人が行き交い賑わう通りの一つで、周りの過ぎる風景を楽しみながら歩いていました。 顔見知りの方には小さく挨拶を交わして、目指す場所に向かう為に川沿いの道にとでて……。 そこではたりと、私の足は止まってしまいます。 ……見つけたのです。 凛と咲く、白く美しい花を。 あの方のように気高く真っ直ぐな花を……。 川岸に、色んな夏花に混じって咲く一輪の花を目は捉えてしまい、私は……。 その場から、動けなくなってしまいました。 この季節、その花が咲くのはなんの珍しいものではありませんが……。 それでも……一輪だけ咲き誇る姿にあの方が重なってしまい……。 胸の奥をきゅうっと強く……締め付けられて苦しくて……。 一歩も動けないのです。 水面が連れてくる風に吹かれて、時折ゆらり揺れる一輪。 私は……どうしても、あれが欲しい。 あの人の姿が重なって見えるあの花が……。 でも、花が咲いているのは川岸といえど向こう岸。 川の深さは膝下ぐらいしかないとはいえ、足を踏み入れるのには……戸惑ってしまう。 触れたい……。 連れて帰りたい……。 けれども、川が戸惑わせる。 ……どのくらい、立ち竦んでいたことでしょう。 このままでは何一つ進まないと思い意を決した……時。 「さっきからそこで何してんだよ? 文」 誰かに肩を叩かれました。 聞き慣れた声を直ぐ後ろから聞きながら振り返れば、思っていた通りの人が。 山縣様(ヤマガケ)が、立っておられました。 暑さに耐えれなくなりましたのか、上半身の着物を脱ぎ腰から垂らし、肌を露にしている山縣様。 「ずっとここにいたろ?」 「見てた……のですか?」 「ああ。水面に映るかっこいい俺を見ていた」 「…………」 どう……お答えすればよいのでしょうか?
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