久坂玄瑞

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あの日……僕が今までで一番に長く感じられたあの夜の日のこと。 あの夜で無くした人の数を長州藩は悔やみ、そし て激怒、しました。 京を追い出され政から離され。 長州、というだけで敵視され……嫌な顔をされるのが当然のものになっていた世の流れ。 長州からすればおかしな言動などしておらず、国 の為に国を思っての言動をしていただろうという のに。 罪を押し付けられ、罪の塊のように見られてきました。 それでも、いつかは……なんて途方もない願いを抱 いて我慢をしてきたというのに……。 同志を無惨に斬り殺され捕縛され、自ら命を絶たせ……京にあった拠点さえも無くしてしまったあの 日。 それらを知った長州は、流石に慎重派の方々も怒りを表し、京を攻めろと……仇を討とうと、多々の 声があがりました。 藩主は愚脳とはいえませんが、それでも……。 慎重派からも過激派からも挟まれてしまえば、どんなに藩の無実を訴え立場を回復したいと願って いても、顔を縦に振ってしまうような……そんなお 方。 案の定、藩主は首を縦に振りました。 藩主からの許可が下りてしまえば、怒りを溜め堪えていた過激派の幹部等は嬉々として兵を率いて 男山八幡宮に営を置く。 幾日か前に、長州藩の回復を願う嘆願書を出した にも関わらず……。 七月十二日には薩摩藩の兵が京に到着していると いうにも関わらず……。 幕府は諸藩に京出兵命を促していたというのにも 関わらず……。 頭に血が昇り怒りしか抱いていない長州の重鎮等 は、戦を望む。 男山八幡宮の本営で開かれた大会議。 そこに集まった幹部等二十数名。 今回の出兵に京にいた僕にも兵を率いろと命が 下った為にも僕はここにいますが、この戦は……ど う考えても、無謀極まりない。 進んでいく会議の内容にそっと息を逃しつつ、近 くに座り声を荒げ幕府に怒りを表している彼……来 島又兵衛に目をやりました。 怒りに目をくらませ、目をやらねばならない箇所 に頭を回さないなど……兵の指揮をとるべきでない というのに……。 「来島さん」 ただ黙って、座っていた僕が初めて声をあげれ ば、一斉に視線が僕にと集まりました。
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