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「笑っちゅうた」
「笑ってた?」
ああ、笑って逝っちゅうた。
「吉田殿みたいに笑って逝っちゅうたきぃに」
吉田殿も久坂殿も笑って逝っちゅうた。
吉田殿のその姿を杉山殿も見ちゅうたから、おいの見たものを聞いた杉山殿は……。
「そっか。……あいつら、らしいっつうの」
杉山殿も、笑っちゅうた。
泣き出しそうなぐらい顔をくしゃりと歪めて……でも、どこかまっこと安堵したかのように。
笑って、空を仰いだ。
「それだけ知れりゃぁ十分だっつうの。で? 九一は?」
「入江殿は見つけれんかったきぃ……。あったのは……刀だけじゃった」
入江殿の刀に目を落とせば、くしゃりと握り掴まれるおいの髪。
顔を上げると杉山殿が前を見ちゅうて、その横顔には心配がちくっとも見えん。
ああ……杉山殿は、入江殿はどこかで生きておると、そう信じてるのじゃろう。
自信に満ちたその横顔に、もしかしたら……なんて、おいの心のどっかにあった不安が薄らいだように、感じた。
入江殿は……きっと、どこかで生きちゅうてくれとる。
それに藍川殿も……。
姿は見えん二人じゃが、今は何でか強く……あの二人は必ずどこかで生きてると、そう思えるきぃ。
おいと杉山殿のように、どこかで……
「笑って生きねぇと、馬鹿女に殴られるっつうの」
笑って生きてる。
誰かを照らすような満開の笑顔をどこかで咲かせることなんじゃろう。
杉山殿から確かな自信と予感をもらい、おいは……笑って、前を見た。
どこかに続いちょる道。
これはおいの生きる道でもあって、人斬り以外の道じゃぁ。
人を斬り生きる道じゃのおて、笑って生きる道なんじゃと思うと……。
じんわりと、喜びのような温かさが胸中に広がり……。
「おいは……杉山殿と共に生きていいがか?」
嫌われ者じゃったおいは
「はっ。今更聞くようなことか?」
誰かと共に進む道を……見つけた。
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