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生涯忘れん言葉がある。
『以蔵さんを必要としてくれる人はいます』
この言葉をおいは何があっても忘れんじゃろう。
藍川殿のこの言葉があったから、おいは全てを投げ出して取り返しのつかんことをせんで済んだ。
今こうやって……隣を歩いてくれる者がおってくれる。
武市先生に対するおいの思いは、水の中にある泡のようにぱちんと弾けて消えてしもぉたが。
今のおいの思いはそんな儚い泡になったりはせん。
おいの思いは……。
藍川殿に拾われて、吉田殿に厳しい現実を突きつけられて。
隔たりのない笑みを向けてくれた久坂殿に入江殿。
お尋ね者じゃというんに、受け入れてくれた桂殿に乃美殿。
同じ藩出の石川殿に……。
そして……おいと共に道を進んでくれる、杉山殿。
生きちゅうか死んじゅうかなんて、関係ないもんなんじゃのぉ。
誰もが皆、おいの中では……生きちゅうんじゃ。
笑って……生きちゅうんじゃ。
だからおいも笑って生きていこうと、前を向いてそう思えて。
人を斬って生きるよりも大事なもんが転がっちゅう道にしっかりと足をつけて歩いていくんじゃ。
のぉ?
藍川殿と入江殿は、今も笑って生きちょるじゃろ?
おいも笑って生きるき。
……でもその前に
「腹へったきぃ……」
「あ゛? じゃあそこらの蕎麦食いにって……そん前にお前ぇは手当てだっつうのぉぉぉ!!」
「あ。忘れちょった」
「忘れんなっつうの!!」
どうやらおいの手当てが先のようじゃ。
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