久坂玄瑞

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戦が始まり、来島さん率いる軍は蛤御門を見事と 称していい程に攻めいり。 それは会津藩を破り去る寸前までいきました。 ……だが。 会津藩に薩摩藩の援軍が加わってしまうと、状況 は一変。 劣勢に傾いてしまった。 更には、薩摩藩の何者かに来島さんが狙撃され倒 れてしまうと、長州軍は総崩れとなってしま い……。 悲鳴と怒声、銃声と撃音が鳴り交い砂煙が立ち込 めるなか、ああ……これで戦の勝敗はつきました ね、と、悟らずにおれません。 ……それでも僕は、長州の勝利を望み、今までの屈 辱や溜めていた怒りを晴らす為に武器を手に取っ た者達へ撤退の合図を出せず。 「目につく敵全て打ち破れ!!」 檄を飛ばす。 堺町御門に乱入するなり、そこにいた越前兵を斬 り捨てていく。 砂煙のせいで視界が霞んでいても、抜いた刀を振 り上げ降り下ろし、防具に守られていない無防備 なヶ所を冷静に狙い。 肉と骨を断つおぞましい感触を手のひらに感じな がら次々と、目の前で鮮血を噴かせる。 火薬の臭いに混じり、濃く漂うのは生臭い鉄のよ うな血の香り。 ……駄目、ですね。 刀を握りこの香りを嗅いでしまえば、僕の中の何 かが……狂ってしまう。 枷が壊れて、僕でありながら僕ではない一部が露 になり 「うおぉぉぉ!!」 全身の血が、たぎる。 普段以上に狂うのはきっと、心にどうしようもな い穴を空けてしまい、それを誤魔化したいから。 少しでも穴から這ってくる痛みを忘れたくて、僕 は……。 次々に人を斬る。 目の前に迫ってきた敵を斜めに斬り崩すと、その 勢いのまま横にいた敵の腹を裂き。 身を屈めながら頭上を過ぎていく刃を感じつつ、 その刃の持ち主の懐に踏入体を貫く。 すかさず刀を引き抜いて、雄叫びをあげながら倒 れいく敵の脇差しを抜くと投げ、それは回転させ ながら向かってくる敵の喉を裂いた。 ただひたすらに、斬った。 斬って斬って、己の防具の表面にはべっとりとし た血糊で染め上がり、人の油で切れ味を鈍らせた 刀。 それでも気に止めている暇は無く、刀を捨てると 地面に累々と倒れている躯どうよう転がっている 刀を拾い上げ、再び斬っていく。 斬っている間だけは、何も考えずにすみますか ら……。
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