沖田総司

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「けほっ……こほっ……」 ああ……痛い。 苦しい……。 乾いた咳は止むことを知らず、体を侵す病は潜めることを知らず。 私は……あとほんの少しの命しか、ないのでしょうか? それへの答えは、医者だとか同じ病人だとか……他者に聞かなくてもありありと分かっていること。 この体は……誰のものでもなく、私……。 沖田総司のものですから。 一度新撰組全ての隊士の健康状態を診察した、幕府にとってもお世話になっている……松本良順先生。 その時の診察で私の中に潜んでいた病は気づかれ……。 私は……。 近藤さんの為だけの刀になりたいと……。 刀しか知らないというのにっ……。 戦から……新撰組から遠ざけられてしまい、千駄ヶ谷の植木屋に匿われている最中。 寝ては薬を飲み、刀を触れることは叶わなく……。 私の体は……終わりにと一歩一歩、確かに近づいていってしまっています。 青白い肌。骨と皮だけの腕。乾いた咳に……。 「け、ほっ」 吐き出される……赤い、赤い血。 手のひらをべっとりと濡らす赤い血をただぼんやりと見つめるだけしかできず……。 私は……もう、近藤さんの役には……刀には、なれないのでしょうか? なれないの……でしょう。 「は、は……滑稽、ですね」 手のひらを濡らす赤色を、枕元に置かれていた手拭いで拭い落とすと、自嘲を漏らしてしまいました。 掠れた声は私のもの。 室内に漂うどんよりとした重みのある空気は……私の身から滲み出るものなのか……。 私は……今まで、両の手の指の数では到底足りない程の人を……斬ってきました。 新撰組の中でも、私は……誰よりも多く、人を斬り殺してきた。 敵も……。 味方も……。 誰からも恨まれて、誰かの刀によって命を終わらせるのだろうと、そう思っていたのに……。 皮肉にも、私の命を終わらせようとしているのは……。 敵でも味方でもなく……治しようのない、病。 武士を志、近藤さんの刀になるべく剣の道だけを走っていた私が……。 病に倒れるなど、滑稽でしかありません。
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