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「こんにちは」
現れたのは3年男子。
多分、この人を知らない学生はいない。
「突然ごめんね」
と、物腰の柔らかい顔でその人は笑った。
色素の薄い柔らかそうな髪が西日を反射して、キラキラと光った。
「君のことが好きなんだ。――僕と、付き合ってくれないか」
今年、バレンタインにチョコをあげたい人ランキング1位に輝いているはずのその人が、少しだけ自信なさ気にそう言った。
まっすぐ、ボクの目を見て。
――ボクの目を?
一瞬で思考が停止して、ただ目の前の人物をボクは観察する。
間近で顔を見るのはそれが初めてだった。
彼は、少し下がり気味の優しい目をした人だった。
目の下の泣きぼくろが、一瞬だけ、本当に泣いているみたいに見えた。
隣の少女が、戸惑ったようにボクと彼の顔を交互に見る。
……黙っているワケにも、いかない、か。
「あの……そういうのは、本人の目を見て言った方が」
そう、隣の少女を指す。
一瞬息を飲んだ彼の顔が、悲しそうに少しだけ歪んだ。
「君に、言ってるんだ」
少女は、黙って席を立った。
グラウンドの喧騒とホイッスルが聞こえる。
ああ、誰かゴールを決めたのかな、て、頭の片隅に男友達の顔が浮かんで、ゆっくり消えた。
ギリギリのところで保ってきたバランスが、その時、音を立てて崩れた気がした――。
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