主人公にはなれない――男が人前で泣くんじゃねえ

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「なお、おはよう」 リビングで朝食を準備中の母は、手を止めない。 「おはよ、母さん」 ベーコンと卵と海藻サラダとスープとパン。 いつも通りの食卓。 に、追加された、から揚げ。 「昨日の夕飯」 と、母が言う。 晩飯も食わずに帰るなり寝たことは、何も聞かない。 そう言えば、生徒会長も何も聞かなかったな。 「ねえ、母さん」 「何?」 「ボクって泣いたことある?」 母さんの手が止まった。 肩幅に足を開いたまま、腕組みして、目を閉じて眉を寄せて、首を30度ほど上に傾けて。 うーん、と小さな声を出しながら考え中の母を、観察する。 思い出せないほど、泣かなかったのか? まあ、自分で思い出せないから聞いたのだけど。 「そりゃあ、泣いてたわよ昔は」 意外な答えが返ってきたのは、観察するのにも飽きてスープに手を付けた後だった。 「あんたが泣かなくなったのは、幼稚園に入ってすぐね。ホラ、純平君?あの子に、『男は人前で泣くもんじゃない』みたいなことを吹き込まれて」 ……純平に。 「あんた、女なのにねぇ」 カラカラと母が笑った。 ボクも、笑った。 何が可笑しいのか分からない。 それなのに、なぜか、笑える。
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