出会い

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 「あの、いつもここで歌ってるんですか?良かったらまた、聞きたいんですが・・・」  携帯電話をバッグにしまいながら女性は慌しく言った。  「たまにやっています」  「そうですか!なら、また聞かせてください!わたしは土屋千鶴といいます」  そう言って、千鶴は携帯電話と入れ違いに出した名刺を将彦に差し出した。  「あの、僕は金村将彦といいます。名刺はないですが・・・」  「大丈夫ですよ。金村さんですね。じゃあ次の機会、楽しみにしてます!今日はありがとうございました」  そう言うと、千鶴は誰もいない歩道の先へと走り出した。少しまっすぐに走ってから、彼女は道を曲がり見えなくなった。将彦は彼女の後姿をいつまでも見ていた。  その後すぐ、彼女の曲がって行った道から一台の黒いRV車が出てきて走り去った。将彦は千鶴がその車に乗っているものと思い、胸の痛みを感じた。  将彦は初めて人に歌を聞かせた。その反応に戸惑いながら、心の中には僅かな嬉しさがあるのを感じていた。そして、彼は千鶴に特別な胸の高鳴りを覚えていた。  しかし、将彦は他に歌う場所を探そうとも考えていた。わざわざ人気のない深夜のビジネス街で歌うのには、彼なりの理由があったからだ。  将彦は誰かに歌を聞かせるつもりで歌っているのではなかった。歌わなければ自分の存在価値さえなくなってしまうような切迫した思いで歌っていた。だから彼の小さなステージは彼の心の孤独を映し出したようなものだった。
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