再会

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 暁子は、佳津子には一足早く「受験勉強には息抜きも必要だから」と了解を得ていたらしく、まだスーツを持っていなかった将彦にどこかからかスーツを借りてきて金村家へ置いて行った。半ば強引に彼は働くこととなった。ワイシャツやネクタイは父親のものを借りた。  写真展初日、将彦は着慣れないスーツ姿で髪型だけ若者っぽく整えて、学生アルバイトといった風情で受付に立った。暁子から仕事の手順を聞き、後は受付で一緒に働く彼女のアシスタントの指示をよく聞くようにと教えられた。  暁子はやはり売れっ子の写真家で朝からたくさんの人が写真展に訪れた。  将彦の仕事は入場代金のやり取りをし、チケットを破ってお客さんに渡す、というだけのものだった。しかし、次々と人が来る上に、人と接することが苦手な性格から、硬い表情と動きで客を戸惑わせた。アシスタントの女性は慣れた手つきと笑顔で客を出迎えていた。アシスタントの人からは、特に注意を受けるようなことはなかったが、終始温かい眼差しで微笑みながら見られていることは隣りで感じ、彼は照れて余計に動きがぎこちなくなった。  しばらくして客の入りも落ち着いてきたところで暁子が様子を見に現れた。  「どう?仕事楽しい?」  将彦は、大変だ、とも言えずに愛想笑いをした。言葉を発しない彼の代わりに、一部始終を見ていたアシスタントの女性が彼の心を代弁してくれた。  「将彦くん、ちょっと大変そうでしたよ。でも、真面目にやってくれて大助かりです」  「そうか、智代(ちよ)ちゃんが言うなら確かだね。まさくん、慣れれば大丈夫よ。智代ちゃん見てれば立派な受付になれるわ!」  「そ、そうですか。頑張ってみます」  さすがに、智代をそのまま通訳にしておくわけにはいかないので、将彦はなんとか声をしぼり出した。  「そうよ。智代ちゃんは何でもできる人だから隣りで見てるだけでいろいろ勉強できるはずよ」  「そんなにすごい方なんですね・・・」  将彦は智代をまじまじと見た。  ショートスタイルの髪型で目がとても綺麗な女性だ。濃紺のパンツスーツに、青い縦のストライプの入った白いYシャツを合わせている。身長は将彦と同じくらいだが、ピンヒールを履いている分背が高くなっていた。撮る方ではなくて、撮られる方の人だと言われても違和感がないと将彦は思った。
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