再会

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 「ま、まあ、暁子さんといると何でもできるようになりますよ。わたし自身の個展の準備もコーディネーターに頼むんじゃなくて、開場選びから全部自分でするように言われたし。だから、わたしがいろいろとできるのは暁子さんのお蔭です。わたしよりも暁子さんを見習うとためになると思いますよ、将彦くん」  「智代ちゃん、うまい!」  満面の笑みで暁子は言った。  「最初のうち、個展は小規模だから、その段階で全て自分でやっておくと、後々規模を大きくしてもコーディネーターと打ち合わせする勘所が分かるようになるのよ。そうだ、将彦くん。そのうちテツくんが来るから、来たらわたしを呼んでね」  「はい。分かりました」  そう言いながら、将彦は視界の端っこに見覚えのある女性がいるのに気づいた。  「あ、あの・・・椎名暁子さんですか?」  その女性は受付を去ろうとする暁子を呼び止めた。  「はい。そうです。ご入場ですか?」  暁子は突然の呼び止めにも動じることなく笑顔で答えた。  「はい!あの、わたし、椎名さんの写真の大ファンなんです」  「あらー!大ファンだなんて、こんな素敵な女性に言われたら、男じゃなくても参っちゃうわ!」  暁子はにんまりと受付の二人を見た。そして、将彦の顔が少し驚いているのに気づいた。  「あのー、失礼ですが、あちらの受付の青年に見覚えあるかな?」  暁子は、自分の大ファンと言う女性に尋ねた。その女性は、会場へ来て初めて受付を見た。  「あ!こんにちは!まさか、こんなところでも会えるなんて」  どこかで聞いたような言葉を言いながら、千鶴は暁子と将彦を交互に見た。  「そうかそうか、将彦くん。こんな美女とどこで面識を持ったのかな?」  暁子は受付の硬直する将彦ににじり寄った。  「あ、あの・・・一ヶ月くらい前の夜にたまたま僕が歌っているのを、土屋さんが見ていたんです・・・」  「そうかそうか、よく正直に答えてくれた。ご褒美に、その美女と少しわたしの作品でも見るかい?」  将彦が戸惑っているのをよそに、暁子は彼に提案をした。  「土屋さん、どうかな?そこの受付くんとわたしの作品を見て行きません?勿論、制作者本人の解説付きですが?」  「えっ!?そんなこと、いいんでしょうか?でも、是非お願いします!思いも寄らない提案で嬉しいです!」
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