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千鶴の、その外見に見合わない、ひたむきさと純粋さと屈託のない笑顔に暁子は魅力を感じた。
「ということで、少しの間、優秀なビジネスパートナーを借りるけど、大丈夫?智代ちゃん」
「少し痛いですが、なんとか乗り切って見せます!」
二人ともにんまりとした笑顔でアイコンタクトを交わした。
「優秀なアシスタント様からお許しが出たので、将彦くん、そこから出てきなさい」
「え?あ、はい・・・智代さん、少し出てきます・・・」
「はい。任せておいて」
将彦は、この突拍子もない展開に戸惑いながら、ドクドクと強く胸を打つ鼓動に頭は完全に麻痺し、素直に暁子に従った。
三人は、お昼過ぎで静かな会場を回り始めた。
将彦は暁子の写真をきちんと見るのは初めてだった。広告やCDジャケットの仕事の話を彼女から聞いて、雑誌やCDを意識して見たりすることはあった。しかし、彼女はつい最近まで自分の写真を金村家へ持ってこなかったし、写真展の話もしていなかったので、将彦も特に強い興味を持たなかった。
ただ、千鶴は暁子の写真の大ファンなだけあって、本人の解説付きで新作の写真を見ることができ、大いに興奮しているようだった。彼女が、声を殺して驚いたり、喜んだり、時には悲しそうな表情をしたりするのを横で見ていて、将彦は、今までに感じたことのない幸福感を味わった。
暁子も、写真を見せて、解説をして、千鶴のような反応を返してくれると嬉しいらしく、調子よくしゃべっていた。少しいた来場者たちもいつの間にか三人を遠巻きに囲むようにして暁子の解説を頷きながら聞いていた。
するとそこへ、アシスタントの智代がやってきて、暁子にお客さんがあることを告げた。
暁子は二人を会場に残し入り口へと戻った。将彦と千鶴はお互いの顔を見た。
「暁子さん、待ちますか?」
将彦が言った。
「ううん、暁子さんに少しでも一緒に回ってもらえてすごく嬉しかったから、後はあんまり迷惑をかけないように見ることにします。金村くんは?」
「僕は、その・・・」
将彦は、二人きりの時間が嬉しい反面、千鶴に対してどう振る舞ったらいいか分からず言いよどんだ。
「良ければ、一緒に回りませんか?」
戸惑う将彦を察して、年上である千鶴は言った。
「はい!お願いします!」
将彦は、千鶴の意外な提案に驚きつつ勢い良く答えた。彼女は少し微笑んでから、次の写真へ向かった。
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