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「暁子さん、暇を見て来ましたよ」
暁子が会場の入り口に戻ると長身のスーツ姿の男性が待っていた。
「あら!テツくん。まさか初日に来てもらえるとは思わなかった。相変わらずマメね」
「たまたまですよ。ちょうど近くに仕事で来て、ちょっと時間が空いたんです」
「そう。何にせよ嬉しいわ。お花まで持ってきてもらって。ありがとう」
智代が花束を持っているのを見て、暁子はそう判断した。
「いえいえ、受付にでもあったらいいかと思って。でも、会場に来てみたらもう十分華やかでした」
東は智代をチラッと見て言った。
「気をつけてね、智代ちゃん。テツくんは息でもするかのようにクサいことを言ってくるんだから」
ちょっと赤らんだ智代を見て、暁子が言った。智代は恥ずかしそうに下を向いた。
「テツくんはもうちょっと自分のステイタスを自覚してもらいたいわね~」
暁子はやんわりと彼の軽率な行動を注意した。
「自覚、しているつもりなんですが」
「それなら、なおさらタチが悪い」
「相変わらずズバズバ言うなぁ」
「言うわよ~。それを素直に聞いてくれると、姉さん助かるんだけどな・・・」
暁子にちょっと真剣な目で見つめられて、東は苦笑した。
「ところで、今日は写真を見る時間あるの?」
「ええ、少し見たいと思って時間を長めに取ってきました。お付き合いいただけますか?」
「そうね。さっき若い二人をご案内したけど、今度は年増の王子でもご案内しようかしら?」
暁子は、花束を持て余している智代に向かって言った。
「あ、はい。大丈夫ですよ!」
ちょっとうろたえて智代は答えた。
「確か、施設に付いてる倉庫にいくつか花瓶があったから、後で頼んでおくね?それまで少し受付のテーブルに『プレゼント大歓迎』のアピールとして置いておいて?」
「分かりました。そのようにしておきます」
暁子は、東の軽口にも困ったものだと、内心感じていた。冷静で判断力のある智代が一発で骨抜きにされてしまった。
東の人を見る力は天性のものに加え、幼少時代から人を観察してどう振る舞うべきか決め人生を渡ってきたことでより強化されていた。それを彼は基本的に歌手のプロデュースで発揮するのだが、いつからか女性に対してもそれを発揮するようになった。
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